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AIRPLANE NUT

ブログタイトルは「ヒコーキきちがい」という意味です。航空ショーや航空博物館を見に行くのが趣味です。

2024年もあいかわらずだらしがない私で済みません。にもかかわらずこんな私のブログを見てくださっている方が何故か増えている!

これは新規投稿しないと済まないなぁと反省しまして、といっても諸般の事情で話題にできるようなネタもないので、正月休みに久しぶりに観た映画の話をしてみようと思います。

 

それは1952年の英国の映画「超音ジェット機」です。監督は巨匠デビッド・リーンです。古い映画ですし、ハリウッド映画のような派手な演出や破天荒なストーリーもないのですが、ジェット推進による航空機の黎明期に立ちはだかった音速の壁に挑む技術者、操縦士とその妻をめぐる物語です。困難な課題に取り組む男達。その過程で発生する犠牲とそれらを理解できないテストパイロットの妻。彼女はジェット機を制作している企業の社長令嬢でもありますが、それゆえに父娘の間には溝があります。

 

この映画を観るにあたって、ある程度の航空機の歴史をいれておくとよりストーリーを理解しやすくなると思います。

第二次世界大戦開戦前から研究されていたジェットエンジンは終戦後に急速に発展しはじめ、戦勝国は高速飛行の研究に熱を入れ始めます。そこで立ちはだかったのがこの映画の原題でもある「音の壁(The Sound Barrier)」でした。戦時中にドイツで進んでいた高速飛行に関する研究を入手した戦勝国はこの映画のようにこの音の壁を越えるべく悪戦苦闘を始めます。というより、そういった航空界で起きた様々なドラマをもとに作られたのがこの映画なのでしょう。

初期のジェットエンジン、デ・ハビランド・ゴーストとそれを搭載したデ・ハビランド・コメット旅客機の模型。コメット機もこの映画に登場します。

 

映画はこの技術の発展を大雑把に追っています。すなわちまずジェットエンジンが発明され、それを搭載するジェット機が登場、その改良型で音の壁に挑戦するという具合です。

 

しかしながら航空機や音の壁への挑戦はこの映画の本題というよりは背景で、デビッド・リーン監督が伝えたかったのは経営者、技術者、操縦者とその妻の人間模様、私の独断的な見方では男女の人生観の違いなのだろうと思います。これ以上はネタバレになるので止めておきましょう。

劇中登場するデ・ハビランド・バンパイヤの複座型。

 

この映画が公開されたころ、航空業界はまさに急速な発展の途次にあり、映画のようにあまたの犠牲者を出していました。映画に登場した世界初のジェット旅客機、コメットはその後、金属疲労による空中分解を多発し、その原因を追究した結果航空機は安全性を増して今日では誰でもヒコーキに乗って旅行できるようになりました。映画の舞台である英国航空工業界はこの時代の繁栄を維持できずに英国の戦後の衰退に吞まれてしまいました。

 

それはまた別の話、この「超音ジェット機」、もしまだご覧でなければお試しあれ。なお、冒頭のスピットファイアのシーンは後のシーンの伏線ですよ!

「プロメテウス」のモデル、スーパーマリン・スイフト。ブルックランズ・ミュージアムにて。スピード記録を出した機体だそうです。