「理佐ちゃん、上がる前に食器だけ洗っておいてもらってもいいかな?」

「はい、分かりました」



主人に指示されて、洗い場に溜まった食器類を洗う。

水切り籠の上にどんどんと置いていき、拭くだけの状態にした時に、一度店内を見渡せば、もんたと志田さんが席を立つ所だった。


あぁ、帰るんだな。


そんな事を思いながら、食器を拭いて、棚に戻していく。

作業を全て終えて時刻を確認すれば、丁度十八時になる所だった。

主人も気付いてか、「お疲れ様」と声を掛けてくれた。
そんな主人と奥さんに声を掛けてから、更衣室へと向かい、すぐに着替えを済ませる。

裏口から出て、表側に出れば、もんたと志田さんがまだお店の前に居た。



「あ、帰るの?」



一応声を掛けて見れば、もんたが頷く。



「うん。理佐ちゃんは上がり?」

「うん、いつもこのくらいの時間に上がらせてもらってる」

「そうなんだー」



もんたとの会話の最中、ずっと視線を感じたものだから、その視線のする方へと向けば、志田さんと視線が絡まる。

何というか、やっぱり何処と無く、醸し出す雰囲気が由依に似てる様な気がする。



「えーっと、確か、志田さん…だったっけ?」

「うん。志田 愛佳」



短調な返しまでそっくりだ。



「すごいね。もう仲良くなったんだ?」



もんたと志田さんを交互に見れば、二人とも何処か恥ずかしそうに、少しだけ頬を染める。



「モナ、すごく優しいんだよ!理佐ちゃんも、モナと友達になろうよ?」



もんたの言葉に、ついつい笑みが溢れてしまう。

友達になるのに、定義があるのか。



「友達って、決めてなるもんじゃなくない?」

「え、そうなの?」

「もんた、私もそう思う。気付いたら、友達になってるんじゃないかな?」



志田さんとは考えが一致していた様で、その言葉に頷けば、「そっかぁ」と小さく呟くもんた。

何となく、志田さんとは仲良くなれそうな気はした。
でも、由依とばかり関わっていた所為か、少しばかり人との関わり方が分からなくなってしまっている様でならなかった。



「理佐ちゃんは、今から何するの?」

「帰る」

「いや、そうなんだけどさ。ご飯どうするの?」

「食べるよ」

「何処で?」

「家でしょ」

「一緒にご飯食べに行かない?」



折角の誘いは有り難かったけど、由依を待たせてしまっている事もあって、やんわりと断れば、もんたに小言を言われてしまった。
でも、すぐに志田さんの方へと向き直したので、その間に声を掛けて、その場を去った。



























一度家に寄って、荷物を置いてからファミレスへと向かった。

店内に入れば、窓際の席にフードを深々と被った由依の姿があった。
梨加ちゃんは帰った様で、一緒ではなかった。
軽く店内を見渡して、知り合いが居ない事を確認してから由依の待つ席へと向かう。



「お待たせ」

「そんなに待ってないよ」



由依はそうは言っても、軽く三十分は待たせてしまっただろう。



「これ」



由依はポケットから何かを取り出すと、テーブルの上に置いた。

それは、一万円札だった。

きっと梨加ちゃんが渡したのだろう。



「梨加ちゃんがくれた。少しなら、私も持ってるから断ったんだけど……」

「きっと、由依にたくさん食べて欲しいんだよ。折角だから、有り難く使わせてもらおうよ?」



梨加ちゃんの厚意を無碍にしたくなくて、そう提案はしてみたものの、由依はあまり乗り気ではなさそうだった。

何処までいっても、あまり人を頼る事はしたくないのか。将又、それを迷惑と思ってしまっているのか。
分かったものではないけど、素直に頷かなかった時の由依はとにかく頑なだ。
中々頷いてはくれないだろう。



「由依、梨加ちゃんの気持ち、分かるでしょ…?」

「……うん…」

「明日、梨加ちゃんにお釣りを返すのに、あんまりにも減ってなかったら、梨加ちゃん、悲しむんじゃないかな…?」

「……」



やっぱり、中々頷いてはくれない。
噤んでしまったままだ。

仕方なく、もう一つの提案をする。



「じゃあ、二人で少し値が張る物を一つ頼まない?」

「……」

「私も食べるんだから、由依だけが気にする事じゃないでしょ?」

「……うん…」

「じゃあ、適当に頼んじゃうよ?」

「…うん…」



渋々ではあったけど、一応は頷いてくれたので、由依の了承を得てから、メニューを見て、ボリュームがありつつ、一番値段が高い物を一つ注文した。

本当はサイドメニューも付け加えようとは思ったけど、”一つ頼む”と言ってしまった以上、きっと由依はそれしか手を付けない筈。
それならば、無駄に注文するのは止めておいた方がいい。



暫く待てば、料理が運ばれて来る。

結構なボリュームに、由依は驚いている様子だった。



「……これ、多くない…?」

「まぁ、一人だとね。二人で食べれば丁度いいんじゃない?」



由依が手を付け易い様に、先に手を付ければ、おずおずとではあったけど、由依も食べ始めてくれた。



「……いつかは、何にも気にせずに、食べたいね……」



小さく呟いてみれば、由依には聞こえていなかった様で、小首を傾げる。
そんな由依に、「何でもないよ」と首を横に振ってから、少しずつ料理を口に運ぶ由依を眺めた。