由依が学校に来ない間に、冬休みも過ぎ去っていた。
気が付けば、もう四ヶ月以上も来ていない。
そんな頃から、由依は辞めただの不登校になっただの好き勝手な噂が一人歩きをしていた。

真相を確かめようにも、由依の家の住所を知らず、教師に尋ねる気にもなれず、ただただ一日が過ぎて行くだけだった。


どうして、あんな態度を取られたのにも関わらず、私は由依の事をこんなにも気にしているのか。
それはきっと、由依が学校に来なくなった前日、最後に話したのが自分だから。
虐めた訳ではないし、完全なる仲違いをした訳でもない。
ただ、私が由依と向き合う事を拒んだんだ。そんなの分かってはいるんだ。
それでも、中々に認める事が出来ないのは、私の要らぬプライドの所為なのだろう。


代わり映えのしない毎日に飽き飽きとして、教室の窓から景色を眺めていると、廊下の方から女子達の噂話が耳に入ってきた。

そして、その内容に違和感を覚えた。



『ねぇ』

『あ、理佐。どうしたの?』

『今の話、ほんと?』

『え?』

『五組のよくサボる人の様子が可笑しかったって話』



私がこの話題に食い付くだなんて、微塵にも思っていなかったのだろう。
みんな目を丸くしている。
それでも、すぐに一人が説明してくれた。


説明してくれた子が、どうやら由依であろう人を見掛けたそうだ。

何でも、片手を壁についたまま、とてもゆっくりと言うのか、覚束無い足取りで歩いていたとの事。


可笑しい。
由依は、少し抜けている所はあったとしても、歩き方は普通だ。
つまり、この噂は由依でない可能性が高い。

私は、そう判断して、女子達にお礼を述べてから自席に戻った。


でも、心の片隅で、その噂が渦を巻いている様だった。

本当は由依の事なのではないか。
由依に何かあったのではないか。

一体どうしてこうも由依の事を考えてしまうのだろう。


私は席を立ち、もう一度彼女達の元へと向かった。
















その日の放課後。

私はとある場所へと辿り着いた。
電車の通過音がよく響く鉄橋の下。

薄暗くて、少し不気味にも感じるこの場所に好き好んで訪れる人は少ないだろう。
それでも、私は真実を確かめたくて、ここに来た。


来てみたはいいものの、こんな廃れた場所を好むのは所謂不良といった類の人達だけではないのかと不思議に思う。
こんな場所に、本当に由依は現れるのだろうか。



そんな事を思っていると、何やら靴を擦りながら歩く音が聞こえてきた。

向こう側からこちらに向かって歩いて来るその人は、俯いていて顔が分からない。
でも、俯いていても分かる程に、髪がボサボサだった。
長い髪を揺らしながら、壁に手をついて、何やら確かめながら一歩一歩を踏み出している様に感じられた。

由依はサラサラな綺麗な髪だった。
だから、あの人が由依な筈がない。

それなのに、私はその人の前に立ちはだかる様に道を塞ぐ。
それでも、彼女は気が付いていない様子で、ゆっくりと前に進み続ける。

そして、遂に私の真正面まで辿り着いた。

彼女は足元で気が付いたのか、立ち止まった。



『あ、あの……』



少しばかり戸惑った声。
その声に、聞き覚えがあった。



『…由依、だよね…?』

『っ…り、さ……?』



ようやく顔を上げてくれた由依。
でも、中々私と視線が交わる事がなかった。

まだ、気不味さが抜けないのか。
それとも、ただ避けたいだけなのか。

真相は由依しか知らない。



『由依、どうして最近学校に来ないの?』

『……』

『私と会いたくないから?』

『ち、違うっ…』



はぐらかしているのか、将又、本当に何か理由があって学校に通えていないのか。
ここまで来たなら、全てを知りたい。



『バイトが……忙しくて……』

『学校を休んでまでお金を稼がなきゃいけない理由があるの?』

『……』

『由依』

『…な、何…?』

『ちゃんと私の目を見てよ…』

『み、見てるじゃん…』



こうも頑なにされると、何とも言えなくなってくる。
でも、明らかに私と由依の視線は交わっていない。

もう、私は私で我慢の限界だった。

由依の両肩を掴めば、大袈裟に肩を震わせる。



『嘘つかないでよっ。ちゃんと見てよっ。本当の事言ってよっ!!』

『っ……』

『私、由依とは仲良くしてたいの。由依と過ごす時間は、学校の誰と居るよりも楽しかった。なのに……あんな事で、ずっと話せないなんて嫌なの…』

『……理佐…』



由依は眉を下げて、明らかに困惑してしまっていた。
そして、それでも私と視線が交わる事はなくて、虚しさだけが募る。

これでも伝わらないのかと俯いた時、由依に頬を撫でられた。
その手は、少しばかり震えていた。

由依の手を掴んで、顔を上げれば、由依はとても優しい表情で微笑んでいた。
まるで何かが吹っ切れた様な、そんな感じにも伺えた。



『ありがとう、理佐。でも、もう学校には後数回しか行かないと思う』

『え…』

『……今から、時間ある?』

『ある、けど…』

『私の家、ここから近いから。立ち話も何だし、上がってってよ』

『あ、うん…』



突然、出会い始めた頃の調子に戻った由依に、今度は私が困惑してしまった。

それでも、何かが知れるかも知れないと分かって、何処かで安堵している自分が居た事も確かだ。



私が、全てを知るまで、後少し…。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

こんにちは。ちょっぴです。

昨日、欅坂46の改名が発表されましたね。
翌日に小説を投稿する事を迷ったのですが、まだ新しい名前は決まっていないそうなので、とりあえずはタグは欅坂46のままで更新していこうかと思います。

皆様、色々と思う事はあると思いますが、このご時世に続いての凡ゆる事態(そこまであるかは分かりませんが)に、メンバー一人一人に苦悩や葛藤があると思います。

すぐに受け入れられなくても、拒絶しないであげて欲しいなと、自分は思います。

拒んでしまって、好きだった頃までも否定する事はないと思うので。


あまり長々と弁じ立てても意味がないので、終わっておきます。

これからも、不定期の更新にはなりますが、よろしくお願いいたします。