君たちはどう生きるか 邦題 屋根裏のラジャー
宮﨑駿
説明不要の巨匠
監督 百瀬義行(元ジブリ)
短編「サムライエッグ」は傑作
宮﨑氏の実人生 原作 Harrold AF (2015) The Imaginary
イギリス文学協会賞
スタジオジブリ 制作会社 スタジオポノック
空襲で母を喪った少年が疎開先で、喋る青鷺に導かれ大叔父が遺した塔に入り、鳥だらけの世界に迷い込む。 粗筋 アマンダが空想したラジャーが、儚い運命を自覚しながらも、アマンダを助ける為に奔走する。
父の職業や宇都宮への疎開は、宮﨑氏の実人生を反映。実母は早逝こそしていないが、結核に罹り寝たきりだったので、主人公の寂しさは自身の経験を反映していそう。架空の存在である「青鷺」はプロデューサーの鈴木敏夫、「大叔父」メンターの高畑勲がモデル。NHKの「プロフェッショナル」では、宮﨑氏が高畑氏の死を乗り越えるようと、本作を制作する姿が紹介された。 背景 出版当時に複数の賞にノミネートされ、書評でも評価の高い児童書が原作。映像的には、リッチな質感を表現する新技術を導入した意欲作。
採点
冒頭の空襲シーンや疎開先で序盤は、主人公の実母へ思慕が溢れていて、胸に迫るものがあった。塔内での顛末は必ずしも初見で合点がいく展開ではなかったが、終盤でヒミ(実母の幼少期)が、空襲で早逝する運命を知りながら、主人公の母になれるたんて素敵と言って現実世界に戻るシーンに涙が溢れた。 感想 序盤では空想上の友達(ラジャー)とのほんわかしたファンタジーが続くのかと油断。イマジナリを食べる敵役の出現で一変。敵役が連れる吸魂鬼のようなイマジナリがやたら怖い。ラジャーは自身の儚い運命を自覚しながら、私文を創造したアマンダのために奔走する。その懸命さと、協力してくれる古株のイマジナリとの交流に心を揺さぶられた。エミリの悲劇の後の出来事は悲しすぎるし、敵役の少女の最期の表情も切ない。
総評:ナウシカ(topcraft)やジブリ作品で育った世代。解説本等を通じて、宮崎氏の思想や背景にも親しんできたので、初見でも「君どう」には胸に迫るシーンが複数あり、評価サイトでも高得点を記入した(5点満点中、4点)。しかし、塔内での顛末の7割方は何のこっちゃという印象だった。鈴木敏夫との高畑勲をイメージしたと言われると再度鑑賞したくはなるが、やはり初見の観客に対して行き届いたエンターテインメントとは言い難い作品にも感じた。
 一方で「屋根裏のラジャー」は、敵役の登場以降は直観的に分わかりやすいエンターテイメント。ラジャーが永遠に存在し続けたれば、図書館に留まるべき。でも彼は、例え相手が自分を忘れてしまっていても、助ける為に身を呈して闘う。その姿に懸命さや必死さが宿っていると、尊さをかじ自ずと応援してしまう。「屋根裏のラジャー」は「紅の豚」までの宮﨑映画にあった、観て愉しいエンタメ性を体現していた。加えて「火垂るの墓」や「おもいでぽろぽろ」に感じた、心の奥底に迫る感動もあった。中盤以降、心が揺さぶられすぎて、フラフラになりながら映画館を後にしました。評価は5点満点中、4.5点。
 宮﨑駿の内省的アート作品と、名作が原作の万人向けファンタジー。比較すべきではないのかも。映画も観なきゃ面白さは分からないので、鑑賞する動機付けには過去作を観た際の期待感が必要なのかも。それでも言いたいのは、「屋根裏のラジャー」を観ない人は、数年後に本作の面白さを知り、何で封切り時観なかったんだと後悔するということ。