杉咲花を愛でる映画としては見処満載。
★☆★ネタバレ注意!!!★☆★
御曹司の本性やアンさんの苦しみに気づけず、毒母から救ってくれた恩人の自死を防げない展開は切ない。
ただ、どうしても指摘したい点が2つあり、以下に詳細を記す。
1. 悪役が典型的過ぎ問題
2. 52Hzの声は他のクジラも聞こえる問題
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1. 悪役が典型的過ぎ問題
 ヒロインは、21歳頃までは毒母、就職後に独りよがりな御曹司、大分移住後は少年をネグレクトする毒母に遭遇。悪役の頻出でヒロインの人生は起伏に富む。ただ悪役の描写が、MCUのヴィラン並みに典型的過ぎないか? 一方で味方は、アンさんも幼馴染もヒロインに一途に尽くす。ヒロイン自身も被害者としてのみ描かれ、彼女や味方については邪悪さは描かれない。アンさんに拠る実家へのタレコミはやり過ぎにも感じるが、御曹司のヒロインに対する暴力で、アンさんの先見性が際立たされる。
 善良なヒロインが巷の悪人に苦しめられる噺は、勧善懲悪の時代劇的で分かり易い。ただ自身を含め、どんな人間も多かれ少なかれ、清さと邪悪さが混在している。毒母自身も幼少期にネグレクトを経験しているとか、元アイドルも夫に筆舌に尽くし難い仕打ちを受けた等の描写があった方が、人間描写に深みを感じたかもしれない。
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2. 52Hzの声は他のクジラも聞こえる問題(ネタバレ無=映画の筋とは無関係)
 本作の主題は52Hzで鳴くクジラ。シロナガスクジラ(blue whale)は一般的に10-39Hz鳴くので、52Hzはかなり高めの声であり、鳴き声の主は「52 blue」と呼称される。視認こそされてはいないが、音声の追跡から他の個体とは独立に行動していると類推され、最も孤独な個体とも呼ばれる。ただその原因が、他のクジラに「52 blue」の声が聞こえていないというのは、科学的には考えにくい。クジラの可聴範囲は様々な方法で推定されているが、シロナガスクジラは200Hzまで普通に聞こえると考えられる。
 そもそも、発声器官(喉など)と聴覚器官(耳など)は別物なので、出せるから聞こえるとか、聞こえないから出せない訳じゃない。無論、種内コミニュケーション(会話など)に用いる声は、出せるし聞こえないと役に立たない。ただ、天敵が発する音を聞き取れれば、捕食を避けられる。実際、一部の蛾は会話には用いないので超音波を発生できないが、捕食を防ぐ為にコウモリの超音波は聞き取れる。天敵以外も、餌生物が出す音が聞こえれば採餌に役立つし、天変地異の音が聞こえれば防災に役立つ。なので、52Hzで歌わないクジラが、52Hzの歌を聞き取れても何の不思議もない。MISAのホイッスルボイスを真似できない人間が大半だが、彼女のホイッスルボイスは問題なく聞き取れるのと同じである。
 なので「52 blue」が実際に孤独な個体ならば、それは他の個体に声が聞こえないからではなく、聞き取った上で無視されているからかもしれない。正直、聞こえないよりも無視しハブられている方がキツイ。