オッペンハイマー(以下オッピー)の前半生、原爆開発後の人生、ストローズの閣僚審問の3つの時間軸が入り乱れ、多数の人物が登場するので、初見では詳細は理解しきれないかも。ただメッセージは明白。監督は、息子世代に希薄になった核兵器への畏れを喚起したいと語っている。

 原作の表題は American Prometheus。プロメテウスは、ゼウスが取り上げた火を人類を戻すが、人類は火で文明を発展させる一方で戦争を始める。ゼウスは怒り、プロメテウスを磔にして3万年苦痛を与え続ける。人類に原爆(火)span>を与えたオッピーをプロメテウスに擬え、後半生の不遇を罰として描いたように感じる。
 しかし、オッピーは本当にプロメテウスだろうか? 1945年の原爆投下を可能したのは、明らかオッピー率いる科学者チームの成果だろう。ただ原爆開発は、アメリカ以外にもドイツやソ連ばかりでなく、日本でも進められていた。仮りにオッピーが居なくても、数年の誤差で原爆は実用化されていただろう。罷り間違って日本が先に開発していれば、被曝国と加害国は入れ替わっていたかもしれない。

 加えて、オッピーの後半生は本当に不遇だったのか? 赤狩りの煽りで国家機密には関われずとも、62歳で癌死する前年までプリンストン高等研究所の所長を勤めている。科学者としてかなり安定した要職。政府の仕事から解放された分、趣味的な研究にも時間を割けたかもしれない。
 結局、原爆投下を決断したのは大統領であり、大統領に投票したのは米国民である。武器を作ったのが科学者だとしても、投下を指示した政治家や、被爆国の損害に歓喜した米市民が、オッペンハイマーに責任を押し付けている内は、核兵器の拡散は止められない。



NHKクローズアップ現代 独占インタビュー