大林宣彦をdisる輩は意地でも満点にしない。逆を言えば、其処しか減点要素がない、よくできた青春映画。正直、「止められるか、俺たちを」(2018)を観ておらず、若松孝二氏にも井上淳一氏にも詳しくない。80年代の空気感も知らない。金本と名乗った時点て諸々察しついても、在日の苦しみは知識としてしか分からない。それでも愉しい2時間だった。
 特に、若松監督・木全・金本・井上のアンサンブルが良かった。井浦新のノリノリの演技は愉しいだけでなく、若松監督に対する愛情に溢れていた。東出昌大の青臭さも良かった。家庭を持っても映画からは逃れられず、客が入らずとも好きな映画をかけたい人柄を公演していた。何だかんだあっても、彼を映画から失ってしまうのは惜しいと感じた。芋生悠も金本の抱える閉塞感を好演。ただ台詞ばかりでなく、金本が映画作りに苦悩する場面がないのは若干物足りなかった。杉田雷麟の固さは初々しく、若くしてチャンスを与えられながらも、若松監督にもみくちゃにされてしまう様は青春そのものだった。
 監督・脚本・企画者が本人の青春を描く伝記映画。スピルバーグのフェイブルマンズを想起したが、明らかに本作「青春ジャック」の方がエモいし愉しい。この作品を観て映画作りを志す若者が出てきそうな、令和版のニュー・シネマ・パラダイス。
 ただ、大林宣彦3本立てを喜んじゃう人間には若松孝二は向いていないそうなので、これから若松映画を見返そうなんて無理はせずにおこうと固く誓った。