わがまま歌姫の闘い vol.2 | 新規おっさんノフのブログ

わがまま歌姫の闘い vol.2

注)純粋なライブレポートでは無いです。あとやっぱ長い。

前回の続きです。

わがまま歌姫の闘い vol.1

語りきれなかったふたつめのわがままについて。



2017.10.20武道館、終盤のMCの最中に私は耳を疑いました。

それは、有安杏果の口から「大人たちと闘った」という発言が出たからである。

今回の武道館でのセンターステージと注釈付き指定席を実現するために。

これまでももいろクローバーZのメンバーが、大人たちの無茶振りやポンコツっぷりに、

不満を言うようなシーンは幾度となく見てきた。

しかし何事も楽しんでチャレンジ出来るメンバーの特性もあり、

これと言って大きな反抗をすることもなく活動してきたと思います。

それがももクロのメンバー、有安杏果の方から大人たちへ無茶振りをし、

己のわがままを押し通すために闘い、勝ち取ったというのだから、

これを驚かずして何を驚こうと言うのか。


彼女が武道館でセンターステージをやりたがってると言うのは、

私は注釈付き指定席について記事の中で予想していました。

注釈付指定席に思った事

ただ記事にも書いた通り、ももクロのファンクラブイベントに並列するソロコンサートなので、

彼女の希望を通すために大きな舞台転換をするのは難しいと思っていました。

ももクロは過去のコンサート「春の一大事2012~横浜アリーナまさかの2DAYS~」において、

エンドステージ仕様からセンターステージ仕様にたった一晩で転換するという離れ業を見せました。

この空前絶後のライブをきっかけにももクロチームは結束力が強まり、

様々な無茶振りを乗り越える力がついたと、演出の佐々木敦規さんは語っています。

しかし、スタッフのみなさんが一同に口を揃えて言うのは「もう二度とやりたくない」の一言。

それほど一晩で舞台を転換するということは無茶苦茶な作業なのでしょう。

それを鑑みれば、有安杏果のセンターステージ案は却下されるのが当たり前のことなのです。


ココロノセンリツの舞台セットは、ももクロのライブでも使うエンドステージに、

センターステージとそこへ向かう花道を配置した形になっていました。

これだけ聞くと、ただ単に元あるステージにオマケを足した程度に思えるかもしれません。

しかし、有安杏果こだわりの演出を実現するためには簡単には行かなかったでしょう。

センターステージにスポットを当てるために、それ用の照明を用意しなければいけない。

前回にも書きましたが、センターステージの足元にもLEDライトも仕込まれ。

花道を駆け抜けるためのハイビームもメインステージ後方に用意されてました。

それから、メインステージ裏に作られた注釈付き指定席のお客さんにも十分に楽しんで貰えるよう、

追加のスピーカー、アリーナ最後方には大きなLEDスクリーンも用意されていました。

また、お客さんが入るエリアが変わるということは、座席や防護柵の設営だけではなく、

それに合わせた警備プランも丸々変更しなければならない。

これらの演出を実現するためには、それだけの機材追加と設営、

オペレーションする人員、リハーサルにかかる時間、そして膨大な追加費用が当然発生します。

ただでさえバンドセットやストリングスチーム、ダンスチームも入る今回のコンサートは、

既に一アイドルのソロ活動の範疇を超えたコストがかかっている。

そう考えれば、これらの演出はかなり実現が難しいものだったと想像できるのです。


基本的にももクロチームは、彼女達の願望は可能な限り実現するように努めてくれていました。

過去の他のメンバーのソロ活動やイベントを見ていても、本人の意向が殆ど反映されています。

そのチームの大人たちですら難色を示したのですから、

彼女の演出プランは相当な無茶振りだったのだと言えるでしょう。

だが彼女はそれでも自分のわがままを押し通した。

そのためには、いつも支えてくれている大人たちと闘わざるおえなかったのです。

ソロ活動2年間の集大成としての武道館、

最後の「ココロノセンリツ~feel a heartbeat~」として位置づけたこのコンサートだけは、

絶対に演出プランを妥協することは出来なかったのでしょう。

彼女はインタビューなどでソロ活動のことについて聞かれると、

「1人で全てやる事の責任」について語る事が多かったように記憶しています。

成功も失敗も全て自分の肩にのしかかってくることを、誰よりも深く理解していた。

だからこそ、ファンやスタッフへのわがままを通したことは、

その信頼関係を揺るがしかねない、相当の勇気のいる行為だったと言えるでしょう。

彼女は「一寸先は闇」という言葉を使ったりと、ネガティブな思考も持ち合わせていますが、

まさにこのコンサートが失敗に終わったならばそうなりかねない。

これまでに無いほどの、不退転の決意を持って臨んでいたのは想像に難くありません。


そして彼女のその強い覚悟は、武道館を最高のステージへと見事に昇華させました。

武道館のど真ん中に、有安杏果が拳を上げて立った瞬間の興奮。

アカペラで歌い始められた「小さな勇気」の力強い歌声。

たった一瞬で9400人を超える人々の心は震えました。

その時の感動を、杏果バンドとして参加していた太田貴之さんもこのように語っています。



有安杏果「ココロノセンリツ ~feel a heartbeat~ Vol.1.5」in日本武道館。 たぶん一生忘れられないコンサートの1つになりました。いや、たぶんじゃないな。。 1曲目、センターステージに本人登場してアカペラで歌い出した瞬間、カッコ良すぎて震えた…。涙も出そうだったけど1曲目がなかなかの難曲だったのでめちゃめちゃ必死にこらえました…。 その後も終始カッコ良かった。いろんな思いがこもりまくって爆発してるように見えました。 有安杏果というアーティストに出会えてとても貴重な経験をさせてもらった気がしてます。 人や人の心を動かすのは地位や才能、お金や権力じゃなくて結局はハートですね。 ボクは昨年のvol0.5大分から参加させてもらって今年のツアー、先日の仙台、武道館、、と。この先もずっとvol100くらいまで続いていったら良いなと思ってたんですが、どうやら先日の武道館で「ココロノセンリツ」シリーズは終わり?みたいですね。。寂しい。。 素晴らしいシンガーソングライターだからゆっくりで良いからソロ活動は続けていってほしいなー。また一緒に音楽やりたい!あと打ち上げもしたい…(笑) #有安杏果 #ココロノセンリツ #ココロノオト #日本武道館 #ココロノ栄養

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一流のプロミュージシャンの涙腺すら、出だしの一瞬で刺激するかっこよさ。

それはアリーナ席、スタンド席、天空席、そして注釈付き指定席、

武道館にいた全ての人々に届いていたと思います。

そしてあのセンターステージがなかったら実現できなかったことも。

おそらくそれは、彼女と闘った大人たちをもねじ伏せるのに十分な説得力を持っていた。

私はそのように確信しています。


それからセンターステージだけではなく、360度全てをお客さんで埋め尽くすという、

彼女のプランは見事に成功していたと思います。

注釈付き指定席を始め、白いTシャツとタオルを装備したお客さん達の笑顔と拍手は、

まるでコンサート演出の一部のような効果を生み出していました。


また演出上、一緒に合唱する事も多かったので、

あらゆる方向から歌声が響いてくる様は、とてつもない一体感を感じることが出来ました。

アンコールの逆再生メドレーの中でマイクを通さず歌われた「小さな勇気」も、

最上段の席にまでしっかり届いていたようですし、距離感もとても良かった。

そして武道館の広い空間に、全方位から降り注ぐ万雷の拍手と歓声。

特にアンコールラストの「Another story」は凄まじかったです。

埋め尽くされた客席からはこの日最大音量の手拍子、

センターステージで顔を真っ赤に紅潮させながら、全てを絞りつくすように全力で歌い踊る有安杏果。

その姿はまるで、ロックの神様が彼女に憑依しているかのよう。

終わった瞬間の熱狂は凄まじい拍手と歓声を生み、渦を巻いて武道館というロックの殿堂を激震させた。

どんなに映像や音響が進化したとしても、あの興奮と感動をパッケージ化するのは不可能でしょう。

有安杏果の歌とダンスといった基本となるパフォーマンスはもちろんのこと、

彼女を支えたバンドメンバー、スタッフ、一体となって盛り上げた観客、

世界観を見事に表現した演出、全てがそろったからこそ生まれた熱狂と感動。

彼女が闘ってまで実現したかったものが、そこに間違いなくありました。

数々のトップミュージシャンと共演する太田貴之さんが、

「一生忘れられないコンサートの1つになりました」と語ったように、

あの空間にいた誰もが一生忘れられないコンサートになったのでは無いでしょうか。



そしてこの闘いは我々を感動させただけではなく、

ももクロとしての未来に新しい可能性を感じさせてくれたと、私は思いました。

かつて彼女達は大人の言われるがままに、様々な無茶振りという名の壁を与えられ、

それを乗り越えていくことで成長し、我々に感動を与えてくれました。

しかしあの国立競技場で百田夏菜子が演説した通り、もう大人たちは壁を作ってくれなくなりました。

それが故に解りやすい目標や、成長の指針のような物がなくなり、

モチベーションを維持できずに他界したファンも多くいた現実があります。

しかし、有安杏果はこのココロノセンリツプロジェクトにおいて、

初めて大人たちに対して逆に無茶振りをし、コンサートを大きな成功へと導いた。

これは大きな成長と言えるのではないかと、私は思います。

もちろん互いの意見が合致して穏便に事が運ぶのが理想ではある。

ただ、表現者として絶対に譲れない部分があるときには、闘ってでも勝ち取らなければならない。

かつてももクロのマネージャー川上アキラは、元レーベルの人間が反発する中、

自らの意見を押し通して「行くぜっ!怪盗少女」をA面曲に持ってきた。

ステージ演出の佐々木敦規は「この演出は予算的に難しい」と反対されても、

TV映えを意識した演出を曲げずに、初の日本青年館単独コンサートを大成功させた。

ももクロがブレイクした影には、業界の常識と闘い続けてきた大人たちの姿が常にあったのです。

武道館における有安杏果の闘いは、今まさにその大人たちと肩を並べる所にたどり着いた。

表現者として本当のスタートラインに立つ、象徴的な出来事であったと言えるでしょう。


百田夏菜子が国立競技場で「大人はもう壁を作ってくれない」と演説したあと、続けてこう言いました。

「今度は自分たちで、大人の事情とか関係なく、
 もっといろんなことをやっていけたらいいなって思いました」


そう、これからが本当に大人の事情と関係なく、

ももいろクローバーZ自らが思い描いた夢を実現するために闘っていく時代が来る。

有安杏果はその先鋒として、大きな戦果を残すことに成功したと思います。

これが起爆剤となり、彼女達の活躍がこれまで以上に大きく広がり、新たな感動を作っていくでしょう。

そんな未来を予感させる「ココロノセンリツ ~feel a heartbeat~ Vol.1.5」なのでした。