大学生として最後の夏休みが終わろうとしていたある日のこと、所属している研究室の教授から突然電話がかかってきた
急いで電話に出ると、すぐに大学に来て欲しいとのことだった
特に予定が入っていなかった私は、すぐに準備を済ませ大学へ向かう
向かっている途中で、教授から大学に着いたら研究室の隣のゼミ室で待つようにというメールが届いた
教授は普段、連絡は余裕を持って送ってくれるので、なにかあったのではと思い当たる節を必死に探す
しかし、思い当たることは一切なく、ただただ何事もないように祈るばかりだった
指定されたゼミ室に着き教授が来るのを待つ
10分程経った頃、突然ゼミ室のドアが開いた
「先生、急に呼び出して……っ…!」
ドアを開けたのが当然の如く教授だと思い込んでいた私は視線を移すのが遅くなった
ゼミ室の入口に立っていたのは教授ではなく、私が会いたくて堪らなかった彼女だった
驚きのあまり、私はその場で固まって動けなくなってしまう
「りさ。」
彼女の私を呼ぶ声で現実に引き戻される
ずっと聞きたった彼女の声…
多くを発さない彼女だったが、その表情や声色、雰囲気でなにを思っているのかが、いまの私にはなんとなく伝わってくる
「元気だった?」
彼女にそう訊かれ、私は少し考えて答えた
「元気だったけれど…元気じゃなかった。」
「え?」
「…てちがいなくて寂しかった。」
「えっと…」
私の言葉に明らかに困った表情の彼女
「でもね…それ以上に、帰ってきてくれて、会いに来てくれて嬉しい。」
そう切り出すと、少し俯いていた顔を上げ表情が緩む彼女
彼女のその表情を見て、彼女への想いが自然と口から溢れる
「友梨奈。」
「ん?」
「出会った頃から友梨奈は私にとって大切な存在…友梨奈のことが好き…」
彼女の眼を真っ直ぐに見て言うと、彼女はゆっくり私に近づいて、ぎゅっと抱きしめてくれた
それは、私の言葉を受け入れてくれたということ
沈黙の時間が流れるが、まるで2人だけの世界に入り込んだようで、2人の距離を縮めてくれる暖かな時間に思えた
しばらくして、腕の力が緩みぱっと体が離されたが、今度は私と彼女の視線が合い離れなくなった
見つめ合っても言葉はないが、気持ちを確認するには充分だった
お互いの真剣な気持ちは、言葉ではなく表情や態度を見れば伝わって来るのだと知ることができたから…
「てちー!」
「なにー?」
「これ!忘れ物。」
「あ…ホントだ。」
「もう…相変わらず、おっちょこちょいなんだから。」
「ごめんって。」
「まぁ…いいけど。」
「りさ。」
「ん…ッ/////」
「いってきまーす!」
彼女のせいで火照ってしまった顔を少しでも冷まそうと、キッチンに戻り水を1杯飲む
「あんなのどこで覚えたの…なんか悔しい…絶対にやり返す。」
大学を卒業して1年が経った…
再会したあの日...いや、出会ったあの日から彼女のことが大切な気持ちは変わらない
なぜ大切なのかという理由は考えていないし、わざわざ言語化しようとも思わない
ただただ、私は彼女のことを理由なく好きなんだ