朝、余裕を持って学校に行き、教室でのんびりと友達と会話をする毎日

ごく平凡で何気ない時間だけれど、私にとってはそんな時間がとても幸せだった

今日も変わらない1日になるのだろうと思っていた...





でも、そうはならなかった





あの人のせいで...





「......それでな、ポムがなぁ......」

「みいちゃん、相変わらずポム大好きだね。」

「もう!分かりきってることやんか。」

「うん。だから、そのポムに今度会わせてよ。」

「じゃあ、お家遊びに来て。」

「え?いいの?」

「もちろん!この間、ポムのおもちゃプレゼントしてくれたし。」

「それは気にしなくていいよ。」

「いーや、気にする!」

「じゃあ、それでお返しということで。」

「お返しにならんよ。」


今日も、同じクラスで仲の良い友達、小池美波と他愛もない会話を教室で楽しんでいた


「あ、そういえば聞いた?」


ふと、みいちゃんが何かを思い出したのか私に訊いてきた


「ん?何を?」

「転校生の話。」

「え?」

「うちのクラスに転校生が来るらしい。」

「いつ?」

「今日。」

「は?」

「ほら、ゆいちゃんの席の隣に机が追加されてるじゃん。」


私の席は教室の左列の1番後ろで、隣には席がない配置になっていた

でも、よく見てみると確かに席が用意されていた


「ホントだ...なんか違和感あるなって思ったら...そういうことか。」

「もう、ゆいちゃんったらー!」

「教室入ってくる時、頭冴えてないから。」

「低血圧やもんな。」

「うん。」

「あ、それでな...その、転校生なんやけど。」

「ん?」

「イケメンなんやって!」

「へぇ。」

「興味ないん?」

「うん。どーでもいい。性格が良ければなんでも...」

「確かにそうやけど...」

「というか、男子?」

「多分?」

「え?」

「え?」

「いや、イケメンってみいちゃん言ったんじゃん。」

「んー、数日前に同じ部活の子が職員室で見たらしいんやけど...」

「ん?」

「私服でラフな格好だったから、どっちか分からないんやって。とにかく、顔はイケメンだったって!」

「へぇ。」

「まぁ、今日かららしいし、隣の席みたいやから自分でよーく確認してみたらいいんじゃない?」

「はいはい。」


そんな会話をしていたら、チャイムが鳴り担任が教室に入ってきた


(おはようございます。席着いてー。)


普段ならほんの少しだけ遅れて来る担任が、時間ピッタリに来たということは転校生の話は本当らしい


(おそらくほとんどの人が知ってると思うけれど、うちのクラスに転校生が来ました。入ってきて。)


担任が廊下にいるであろう転校生を教室に入るように促した

静かにドアが開かれて転校生が教室に入ってくる

その転校生の姿を見て驚いた...





なぜなら





もう会うことはないと思っていた人だったから...





(転校生を紹介します...と言っても本人から軽く自己紹介してもらおうかな。)


私の驚きは幸いにも声には出なかったようで、話はどんどん進んでいく


「えっと...親の仕事の関係で転校してきました。渡邉理佐と言います。よろしくお願いします。」


キラキラしている見た目、ちょっと恥ずかしそうにしている人見知りな感じ、そして名前...


間違いなく、私は彼女に会ったことがあって話したこともある

でも、なぜ?という思いでいっぱいだった


(えっと、渡邉さんの席は...あの1番後ろの空いている席ね。)

「あ、はい。」


そう返事をして、こっちに近づいてくる彼女

私は気にしないように窓の方に視線を移した


「あの...よろしくお願いします...」

「はい。」


突然声をかけられたが、不自然にならない程度に顔を見ずに返事をした





それから、彼女は一日中クラスメートから質問攻めにされていたが、戸惑いつつも嫌な顔を見せずに答えていた





「ゆいちゃん。」

「ん?」

「渡邉さん、アメリカからこっちに引っ越して来たんやって。」

「ふーん。」

「反応薄いなぁ。」

「別に。」

「もう...隣の席なんやから、優しくしてな?」

「考えておく。」

「ツンデレなんだから。」


みいちゃんには、そんなふうに言ったが内心としては、彼女とどう接すればいいか分からずにいた

いまさら再会したところで、以前のように話せるかと言ったら難しい

それだけ時間というものは残酷なのだと実感している


「なぁ、ゆいちゃん。」

「んー?」

「今日、放課後どっか行かへん?」

「あー、今日は無理...お母さんに早く帰ってくるように朝言われたんだよね。」

「そうなん?じゃあ、明日は?」

「明日ならいいよ。どこ行く?」

「この間、行こうって話してたカフェは?」

「いいね。」

「じゃあ、決まり!」


この会話で、放課後になったらすぐに帰らなければいけないということを思い出したのだけれど、なぜなのか未だに分からずモヤモヤしている

そういえば、朝言われた時に事情を聞いても帰ってきたら話すの一点張りで分からずじまいだったから

考えても仕方ないと思い、次の授業の準備をした










チャイムが鳴り帰る準備をする


「ゆいちゃん。」

「はーい。」

「途中まで一緒に帰ろ!」

「うん。」


そこから途中まで、いつものようにくだらない話をして2人で帰った

みいちゃんと別れてからは早足で家に向かう





「ただいまー。」


玄関に着いて違和感だらけだった

仕事でいないはずの母の靴と見慣れない靴、何個も積み重なったダンボール

状況が読めずに、すぐにリビングへ向かった


「お母さん。どういう...っ!!」

(おかえり。)

「えっと...どういうこと?なんで?」


リビングには、普段と変わらない母と遠慮がちにイスに座っている彼女の姿があった





それが私の生活や考えを一変させるできごとの始まりだった...