本当は4/1にあげる予定でした










スマホの画面を睨み続けて、数十分...

文字を打っては消し、打っては消しの繰り返しをしている

普段ならば、伝えたいことを文章にすることくらい容易くて、いくら長文と言えども時間はそこまでかからない

何故、今日はそういかないのか...

迷いや罪悪感、それ以外にもいろんな感情が入り混じっているからだと思う





"ケガしちゃった"

"週刊誌に撮られちゃった"

"卒業しようと思う"

"別れよう?"






ちょっとしたイベントの日に送るには、重めの内容ですぐに嘘だとバレるはず
だからといって、良い気分にはならない嘘はできない

でも、思いつく嘘もない


それならば、いっそのこと彼女に連絡をしなければ問題ないのではと考えた

私としてはマシな考えに至ったと思う


結局、彼女に連絡しないまま昼前の時間になっていた


そんなとき、スマホに通知が入った

紛れもなく、彼女からのメッセージだった


『起きてる?』

『大丈夫?』

『なんかあった?』


今日は仕事のない休日

休日は決まって、彼女とメッセージを送り合っていた

しかし、今日は1つも彼女に送っていない

それを彼女は心配に思い、そんなメッセージを送ってきたのだろう


『起きてる。』

『大丈夫。』

『特にない。』


ぶっきらぼうにメッセージを返す


すると、間髪入れずに返信が来た


『最後のは強がりでしょ。正直に言って。』


何年も一緒にいて、苦楽を共にしてきた

もはや彼女に隠しごとなど難しい


『やだ。』


でも、私は素直になれなくて、冷たい態度を取ってしまう


『へぇ...そんなこと言っていいんだ?』


彼女は全てお見通しだと言わんばかりの返信が来た

私は、彼女がなにを考えているのか分からずモヤモヤする


『どういうこと?』


そう返せば、なにかを企んでいるような表情のスタンプが送られて来て、間髪入れずにメッセージも届いた


『由依が好きなスイーツを買って、由依の家に行こうと思ったんだけど...』

『強がりな彼女は、好きなスイーツや恋人がなくても、元気に過ごせるみたいだから行くのやめて、お家でのんびり過ごすよ。』


甘くもちょっと冷たい、明らかに私を転がしている言葉に、トラップだと分かっていても私は嵌ってしまう


『それもやだ。』


それでも素直になれない私は無愛想なメッセージを送ってしまう


『じゃあ、どうしてほしいの?』

『ハッキリと言ってくれないと分からないよ。』


そんな性格の私のことをよく知っている彼女は、私の意見を話す機会を作ってくれる

面倒だからと適当にやり過ごすことも、言いたいことを察して先回りすることもできるはず

でも、私の言葉を待って聞いてくれる

そんな彼女の優しさを前にすると、自然と素直になれる自分がいる


『会いたい。』

『私の家に来てほしい。』


短い言葉だけれど、確かに自分の気持ち

そう送ると、今度は優しい表情のスタンプが来た


『いまの言葉送ったの12時過ぎてるから、嘘とかナシだからね。』


諸説あるけれど、エイプリルフールの嘘は午前中までらしい...

会話の途中から、すっかりエイプリルフールのことを忘れていた私は本心から話していたので、取り消すはずもない


『ナシって言っても、理佐なら来てくれるでしょ?』


『由依に言われたらどこにだって行くよ。』


彼女はいつだって優しくて、かわいいのにかっこいい


『本当に?』


『嘘じゃない。』


『じゃあ、待ってるね。』


『いまから向かうね。』











数十分経った頃、家のインターホンが鳴った


「はーい。」


「やっほー。」


彼女の手土産をもらって、一緒にリビングに行く


「それで?午前中に連絡がなかった理由は?」


ソファに腰掛けてすぐに私に問いただす彼女

きっと彼女は、正直に話すまで何度でも訊き続けるだろう

観念して、連絡しなかった理由を話す

エイプリルフールに乗っかろうとしたこと
傷つきかねない嘘をつきたくなかったこと
そんな嘘をつくくらいなら連絡しない方がいいと思ったこと

洗いざらい話すと、彼女は少し笑いながらも、私の頭に手を伸ばして話し始める


「私のことを考えてくれたんだね。ありがとう。」

「でも、きっと、由依の嘘は分かりやすいから、すぐに見抜いたし傷つかない自信があるよ。」


「本当に?」


「んー...でも、1つだけダメなものがあるかな。」


「なに?」


「由依から『別れよう?』って言われたら、嘘でも本当でも絶対に聞き入れないと思う。」


「え?」


「信じる信じないの前に、その言葉を由依から言われそうになったら、耳塞ぐ。」


「ふふっ。言わないよ。」


「本当に?」


「うん。だから、理佐も言わないでね?」


「言いません。」


「本当に?」


「本当!あ、『好き』とか『愛してる』とかなら、嘘でもたくさん聞く。」


「もう!」


「だから...来年のエイプリルフールは、『別れる』以外の言葉なら、なんでも送っていいから...」


「ん?」


「由依からの連絡がない方が心臓に悪い。それに寂しい。だから、気にしないで楽しもうよ。」


「うん。」










彼女は優しすぎる...

優しいけれど、ふざけるのが大好き


彼女のことを嫌うメンバーがいないのは、彼女のそんな人柄で惹き付けられるからだろう

ときに、私がすごく嫉妬してしまうくらいには、メンバーから好かれ慕われている

そんな、いろんな人から好かれ慕われているところも、私が彼女を好きになった部分の1つ


もしかしたら、誰よりもふざけるのが好きな彼女は、私から言われる嘘を楽しみにしていたかもしれない

そう考えると、なにがなんでも来年は彼女に盛大な嘘をついてドッキリさせてみたいと思った


来年、私たちの関係はどうなっているか分からない

別々の道に進んでいるはずで、この数年間、苦楽を共にしてきて一緒にいるのが当たり前のようになっていたから...

でも、こういう関係性はずっと続くと信じてる

だって、お互い『別れる』言葉を聞きたくないって話してるから


「理佐。」


「ん?」


「来年、覚悟してね?」


「こっわ。」