Another 10 Yearsベビメタ名場面(7) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日4月11日は、2017年、『Live at Tokyo Dome』ワールドプレミアが全国18劇場で開催された日DEATH。

<2014年(2)>

●2014年7月30日:レディガガ、踊りだす
Lady GAGA's Art Rave@フェニックスUSエアウェイズセンター(収容18,422人)
<セトリ4曲>
1. メギツネ
2. ド・キ・ド・キ☆モーニング
3. ギミチョコ‼
4. イジメ、ダメ、ゼッタイ

レディ・ガガがどういう経緯でBABYMETALを前座に起用したのかはわからないが、当時の彼女が日本のサブカルチャーにハマっていたことは間違いない。
Lady GAGA's Art Raveツアーは、3rdアルバム『Art Pop』をテーマに2014年5月からスタートしたが、BABYMETALの前には初音ミク、9月の日本公演@マリンスタジアムでは、ももいろクローバーZを前座に起用している。
Art Raveというタイトルがついているように、レディ・ガガは、自らの音楽表現を「アート」と考えている。もちろんそれはハイソサエティの教養としての「芸術」ではなく、ポップカルチャーの一部であり、ファッションやダンスを含めた前衛的な表現活動という意味である。
アナログレコード盤の登場以来、ロックやポップスは巨大なビジネスになった。
レディ・ガガが、自分の音楽活動を「アート」であると言い切ることは、実は緊張感をはらんでいる。
アメリカに渡ったサルバドール・ダリは、仲間であるシュールレアリストに「ドルの亡者」と揶揄され、キャンベルのスープ缶やマリリン・モンローの写真を加工したリトグラフをファインアートだとしたアンディ・ウォーホールがなかなか理解されなかったように、「芸術」は常に「商業主義」を批判してきた。
音楽の分野では、1970年代後半のパンク・ムーヴメントが「商業主義に堕した」ハードロックバンドを排撃し、80年代のスラッシュメタルバンドは、LAメタルバンドを「ヘアーメタル」と揶揄した。
レディ・ガガ自身も、アートをテーマにした『Art Pop』は2億円以上のプロモーション費用がかかっていたが、前作より大幅に売上が下がり、スタッフのリストラに踏み切らざるを得なくなった。
「芸術=アート」は「ポップ=商業主義」と相いれないのか。
それとも「商品」であっても「芸術=アート」になりうるのか。
ガチガチのメタルヘッズが「商品=J-POPアイドル」であるBABYMETALを「メタルじゃない」と攻撃するのもこの文脈の上にある。
レディ・ガガが初音ミクやBABYMETALやももクロを前座に起用したのは、日本の「アイドル」が彼女の考えるポップ・アート表現だと考えたからに他ならない。
したがって、巷間伝えられるように、METALLICAから伝え聞いたBABYMETALの演奏・パフォーマンスが卓越しているから起用したのだ、というのはちょっと違うように思う。
むしろ、ステージ上に設置された透明モニター上の3Dホログラム映像で歌い踊るボーカロイド=初音ミクや、戦隊ヒーローを模したアイドル=ももクロと同じく、BABYMETALも欧米人には思いもよらない「キッチュで異様な見世物」であり、商業主義=アメリカのポップ音楽市場のど真ん中で、音楽表現を「アート」と主張する自分の「味方」と考えて起用したのではないか。
だから、Lady GAGA's Art Rave@フェニックスUSエアウェイズセンターで、「さくらさくら」のメロディの「♪キーツーネー、キーツーネー、私はメギツネ―」というSU-のアカペラに続いて、白塗り&フランシスコ会修道服の神バンドの演奏による重低音のC#mのリフにのって、黒い「キモノ風ガウン」を着てキツネ面を掲げた三人が登場してきたのは、まさにレディ・ガガの意図ピッタリだったわけだ。
そして、E単音を基調としたハードコア・チューンなのに、Kawaiiジャパニーズガールズが「チョコレートが食べたい」と歌い踊るだけの「ギミチョコ‼」が演奏されたとき、上手ステージ下にいたレディ・ガガは踊りだしてしまった。
それは、あまりにも「アイドルとメタルの融合」=「キッチュ」という彼女のイメージどおりだったからだ。歌もダンスも上手い。演奏も超絶的である。
「商業主義」が「アート」足りうるには、「アイデア倒れ」ではダメなのだ。
反「商業主義」派が舌を巻くほどの技術や修練に裏打ちされていなくては、馬鹿にされるだけだ。
そしてこのBABYMETALのやり方は、バンド評論において「技術的にはヘタクソで、過激すぎて全然売れなくても、純粋な初期衝動がある」ことを過大評価しつつ、タイアップがなければ取り上げもしない音楽評論家たちに対する痛撃でもあった。
だからこそ、「音楽は最高。期待してなかったけどリードシンガーはちゃんと歌える。私は一人のファン」という終演後のレディ・ガガのツイートの意味は大きかった。

●2014年11月8日:「Road of Resistance」初披露
Back to the US/UK Tour@ロンドン02アカデミーブリクストン(収容4,921人)
<セトリ14曲>
1. BABYMETAL DEATH
2. いいね!
3. ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイト
4. 悪夢の輪舞曲
5. 4の歌
6. Catch Me If You Can
7. 紅月-アカツキ-
8. おねだり大作戦
9. メギツネ
10. ド・キ・ド・キ☆モーニング
11. ギミチョコ‼
12. イジメ、ダメ、ゼッタイ
13. ヘドバンギャー‼
(「紙芝居」)
14. Road of Resistance(初披露)

7月5日のSONISPHERE 2014で、6万人のメタルヘッズをノックアウトし、The Forumでの初ロンドン単独公演を成功させたBABYMETALにとって、11月8日のBack to the US/UK Tour@ロンドン02アカデミーブリクストンは、予想もしなかった現地プロモーターのオファーによる追加公演であり、ロック発祥の地イギリスが、BABYMETALの「第二の故郷」となった日でもあった。
セットリストに大きな変化はなかったが、最後に、スマホを片手にバーチャルリアリティを生きる人間たちは、A.I.に判断力を委ねることによって生きている実感を失ってしまったというSFじみたストーリーを描く「紙芝居」が映示された。そして、生身の身体と身体がぶつかり合うライブに行くことによって、生きる実感を取り戻すのだという「お告げ」が告げられ、始まったのが、著名ヘヴィメタルバンドのメンバーが戦国時代の武将として戯画化され、戦場でぶつかり合う「戦国紙芝居」だった。
「紙芝居」に映る「One For All」「All For One」「We are THE ONE」という文字から、当初「THE ONE」と呼ばれたのが、イギリスのパワーメタルバンド、ドラゴン・フォースの二人のギタリストがレコーディングに参加した「Road of Resistance」だった。
初見なのに、BABYMETAL旗を担いだ三人が登場し、SU-が客席を分ける仕草をすると、フロア中央にWall of Deathが形成され、「♪1234!」という掛け声から曲が始まると、盛大なモッシュが始まった。途中の「♪ウォーウォー、ウォ、ウォー…」というシンガロングパートでは、ほとんどの観客がニコニコと笑顔で歌った。
日本人ファンも知らない世界初披露であり、以後、この曲が「イジメ、ダメ、ゼッタイ」に代わるフィニッシュソングになったことを考えると、「世界のBABYMETAL」誕生に、イギリス人ファンが立ち会ったという歴史的瞬間であった。

●2014年12月22日:SU-「オンリーワンのBABYMETALというジャンルを作りたいんですよ」
NHK総合『BABYMETAL現象~世界が熱狂する理由~』放映

 

「NHK新規」という言葉もあるくらい、この番組がBABYMETAL史に果たした意義は深い。
冠徹弥(The 冠)の挑発的なナレーションで始まり、若者に「ヘヴィメタル」という言葉の印象をインタビューするシーンから始まるこの番組は、視聴率など無視するかのように、視聴対象を「昔、ハードロックやヘヴィメタルが好きだった中高年」というごくごく限られた層に絞っていた。
それだけに、その想定に該当する人にとっては、聞いたこともない日本の中高生アイドルが、ロックの本場で、イギリス人を熱狂させているという事実に、心臓を撃ち抜かれてしまった。
この番組を見て心奪われ、BABYMETALファンになった中高年を「NHK新規」という。
あれから7年。「NHK新規」はもう立派な古参メイトである。
今なら、あるいは民放なら、スポンサーがつくはずもないこんな企画はネット番組になってしまい、YouTubeで数万件の視聴数で終わってしまうだろう。
それを天下のNHKが、おそらくかなりの予算をかけて、アミューズが著作権を持つ映像、ロンドン市内でのロケ、『METAL HAMMER』編集部やドラゴン・フォースへのインタビュー、ロンドン公演のライブシーンも含めて、ドキュメンタリー作品ともいえるレベルの映像に仕上げ、かつ、全国放送してくれたのだ。
印象に残るシーンを挙げてみよう。
O2アカデミーブリクストンの前を通り過ぎる車の中から、三人が「あ、並んでる、並んでる」と観客の待機列を嬉しそうに眺めやるシーン。
二階建てバスをチャーターし、ロンドン市内でロック聖地巡りをする三人が、The Beatlesのアルバムジャケ写にもなったアビーロードスタジオ前の横断歩道を渡る場面。
SU-が「BABYMETALはメタルではなく、アイドルでもありません。オンリーワンのBABYMETALというジャンルを作りたいんです」と言ったシーン。
開場前の待機列でイギリス人メタルファンのLeeさんが「俺は23年間ヘヴィメタルを聴いているがこんなバンドは見たことがない。」と言い、終演後、声を枯らして「Amazing!Awesome!」と感嘆するシーン。
YouTube公式にアップロードされている「イジメ、ダメ、ゼッタイLive at Sonisphere」、映像作品化されている『Live in London』と合わせて観ると、2014年にBABYMETALがイギリスで巻き起こしたセンセーションを追体験することができる。
2014年3月2日の日本武道館「黒い夜」で旅立ったBABYMETALが、欧米の音楽市場でセンセーションを巻き起こしたことが日本に伝わり、「逆輸入アーティスト」としてBABYMETALが注目される。
その相乗効果によって、ファンベースがどんどん拡大していく。それが2014年~2016年に日本と欧米の壁を超えて発生した『BABYMETAL現象』だった。
(つづく)