10 BABYMETAL BUDOKAN考察(3) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日4月21日は、2016年、APOCRYPHA-Only Fox God Knows@新木場Studio Coastが行われ、欅坂46とともにTV朝日『Music Station』に出演し、「KARATE」を披露した日DEATH。



考察の3つ目のポイントは、10 BABYMETAL BUDOKANが、メタルバンドとしてはもちろん、アイドルあるいはダンスアーティストとしても他に類を見ない表現技術がふんだんに用いられた贅沢なライブだったことである。
歌と演奏だけでなく、ダンス、凝った舞台装置、映像、照明、特効による「総合芸術」をライブで見せるというスタイルは、メタルバンドとしては異例である。
だがそれは、2014年末のNHK『BABYMETAL現象』で、SU-METALが言った「アイドルでもメタルでもないOnly OneのBABYMETALというジャンル」という自らの定義を、真っ当に追求しているということだ。
BABYMETALがこのスタイルに到達した源流は、いくつかある。
ぼくなりに考察してみると、まずは先輩であるPerfume。
いうまでもなく彼女たちは、SU-METALと鞘師里保にとってアクターズスクール広島(ASH)の先輩だが、アミューズに所属し、中田ヤスタカのプロデュースを受けて「近未来」をテーマとするようになってから、ライブは「総合芸術」化した。
小規模会場を巡るツアーやライブハウス、フェス出演の際には、ステージに設置できる装置は限定的で、歌とダンス、コスチュームで「アイドル」としての魅力を発揮するだけだが、大規模会場の単独公演では、「近未来の日本」=テクノ・オリエンタリズムの世界観を表現するため、凝った舞台装置、照明、レーザー、特効、映像パネル等による演出が凝らされ、「音楽コンサート」の域を超えた表現世界が現出する。
BABYMETALも同じで、小規模会場では舞台装置は限定的で、フェスではバックドロップ一枚、「紙芝居」も音声で流れるだけのことも多い。それでもメンバーや神バンドのコスチューム、楽曲のイメージを伝えるダンスで、BABYMETALの魅力は発揮される。
それが、大規模会場になると、スクリーンにあのヘタウマのイラストとともに「紙芝居」のストーリーが映し出され、「ベビメタ神話」の世界観が始まる。
照明も、楽曲に合わせてコンピュータ制御による動的演出が行われ、レーザーショウが同時に展開する。
ここにスモーク、パイロによる炎が加わり、観る者の現前に幻想的な世界が現れるわけだ。
舞台装置の可動化は、かなり早くから行われていた。
2013年12月のLegend “1997”では、ライブ終盤に破壊される巨大な聖母像が設置され、その前に油圧でせり上がる小ステージが設けられて、オープニングではSU-METALがフロア面から5メートル近く引き上げられた。
2014年3月の日本武道館2Days公演は、今回と同じく「魔法陣」を模した中央ステージ構造で、その周りに床面から2メートルの高さの花道が設置されていた。中央ステージの中心には、やはり油圧式の小ステージがあり、その上部には上下するスクリーンがあった。


2015年1月の新春キツネ祭りでは、ステージ、観客席中央の島舞台に巨大な赤い欄干を持つ橋が架けられた。
2015年12月のFinal Chapter of Trilogy@横アリでは、ステージに巨大なキツネ像が設置され、「THE ONE」で、その上から出現したピラミッド状のゴンドラが、三人を乗せて客席上空を飛ぶという演出が行われた。
2016年4月のWembley Arenaでは、観客席の中央に回転式の島舞台が設置され、オープニングで、ステージ上に三人の姿が見えたと思いきや、三人が島舞台のスッポンから登場するというサプライズが行われた。
2016年12月の東京ドームでは、アリーナ中央に巨大なタワーが建造されており、初日「Road of Resistance」では、三人はその頂点に設けられたステージに「降臨」。ライブ中は、その下の円形ステージが360度回転し、さらに三方向に50メートル近く延びた棺桶状の花道も用いられ、二日目のオープニング「BABYMETAL DEATH」では、三人がその先端から十字架に架けられた姿で出現し、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」では、YUIとMOAがその上を疾走した。
2017年12月のLegend-S-洗礼の儀@広島GAでは、客席後方の巨大キツネの頭部からステージまでの花道上を、6つのキツネの頭部がついた円盤状のステージが移動するしくみになっていた。
2018年10月のDarkside Japanツアーでは、それぞれ油圧で上下する▽△状のステージが組み合わされ、Chosen Sevenの7名が「メタル歌劇」のようなライブを繰り広げ、Dark Night Carnivalでは「META!メタ太郎」で、5メートルの高さにリフトアップされた▽ステージの上でSU-、MOA、ヨアキム・ブローデン、Dark Vader卿が客席に手を振った。


そんな中、今回の10 BABYMETAL BUDOKANで導入されたのは、中央ステージのフロア面にも映像が映る舞台装置だった。
ステージ上に巨大スクリーンを設置し、背景映像による演出が導入されたのは、2017年10月の「巨大キツネ祭り」からである。
これは、2017年1月のMETALLICAソウル公演がヒントになったと思われる。
BABYMETALは、2013年の「五月革命」でMETALLICAを「マスター」として師事し、実際に2013年サマソニ大阪のオフショット写真が翌年の世界進出の起爆剤となった。
そのMETALLICAは、メタルバンドとして数万人規模の大会場で行う「スタジアム・メタル」を追求してきた。
メタルバンドのライブでも、コンピュータ制御の照明、スモーク、パイロ、モニュメント設置などの演出はよく行われる。
もうひとりの「マスター」であるメタル・ゴッド、Judas Priestのロブ・ハルフォードはステージにハーレーを持ち込み、アイアン・メイデンは、マスコットキャラクターである“エディ”を巨大化したロボットをステージに出現させた。
ギミックを嫌うMETALLICAの場合、技術の進歩で実現した薄型巨大スクリーンによる映像演出をメインとした。
ぼくが観た2017年1月のソウル公演では、「One」演奏の際、レーザーによる赤いサーチライトが客席を照らし、ステージの背景となる5面の巨大スクリーンに、霧の戦場をさ迷い歩く兵士たちが映し出された。
おそらくこれを参考に、2017年の巨大キツネ祭り(SSAおよび神戸ワールド記念ホール)では会場に5面の巨大スクリーンが持ち込まれた。「Catch Me If You Can」や「シンコペーション」の際に、巨大スクリーンの映像を背景に、三人が歌い踊る情景が出現した。
さらに2019年11月のSSAおよび大阪城ホールでは、ステージの背景だけでなく、上下する立体的なステージの側面も薄型スクリーンとなっており、歌い踊る三人が映像の中に溶け込んだような印象を受けた。


今回の10 BABYMETAL BUDOKANでは、中央八角形ステージのフロア一面がスクリーンになっており、三人はその上で歌い踊った。中央八角形ステージは一段高くなっているが回転はしない。その8つの側面もスクリーン、外周花道の側面もスクリーンになっている。中央ステージの上部には、やはり8つの側面を持つスクリーン。こうして、パフォーマーは変幻自在の「映像の中」で、歌い踊るのである。
これは、理論上あらゆることが可能だが、その実「画面」を見るだけに過ぎないオンライン配信ライブとは、対極である。
10 BABYMETAL BUDOKANは、5,000人定員の有観客ライブだが、そこで「生」で行われるパフォーマンスは、「映像の中」で起こっているリアルなのだ。
例えば、「KARATE」では、ステージ上の十字線の上を、三人が超正確に移動しつつダンスするが、そのフロアには過去のBABYMETALの映像が映っている。ステージ上で三人が倒れると、映像も倒れた映像になるが、SU-が上手を向いて、倒れているYUIを助け起こそうとする瞬間、映像は2018年のDarksideライブのものに変わる。そしてステージ上のSU-が助け起こすのはMOAなのだ。
それがわかった瞬間、ぼくは思わず天を仰いで、涙をこらえなければならなかった。
こういう表現の深みを、10 BABYMETAL BUDOKANは実現した。
BABYMETALは、この10年間、表現者として常に進化し続けてきた。
お客さんを笑顔にするのが「アイドル」ならば、喜びも悲しみも怒りも苦しみも、あらゆる感情を表現できるのがアーティストだ。その意味で、10年を懐かしむだけでなく、チームベビメタの想い、技術の進歩も含めたBABYMETALというアーティストの進化を存分に味わうことができたのが、10 BABYMETAL BUDOKANだったといえる。
(つづく)